映画『MOTHER マザー』を観て、その事件について書かれた本を読みました。

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実際にあった事件を元にして作られた映画『MOTHER マザー』

映画『MOTHER マザー』
出典:映画『MOTHER マザー』オフィシャルサイト

とある夜、Netflixで大森立嗣さん脚本・監督、長澤まさみさん主演の『MOTHER』を観たら、朝方まで眠れなくなってしまいました。

この映画は実際にあった事件を元にして作られています。

2014年、事件当時17歳の少年が埼玉県川口市で祖父母を刺殺し、金を奪ったとして強盗殺人罪に問われた事件です。

映画の元となった事件について書かれた本を読みました。

その事件について取材を重ねられた毎日新聞の記者・山寺 香さんが『誰もボクを見ていない: なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』という本を書かれていて、ありがたいことにKindle版もあったので、この週末に読んでみました。

映画ももちろん素晴らしかったのですが、この本に書かれていることは衝撃的でした。当たり前かもしれませんが、現実の方がずっと残酷でした。

この少年は小学生の頃から学校に通わせてもらえていなかったので、中学二年生の頃に小学生の漢字を独学していたということなのですが、拘置所で少年が書いたという手記を読んでいると、感情を文章に綴れているあたり、とても賢い子であることが分かります。

「子供の頃はどうしようもなく流れのままに生きるしかない。そして流れのままに生きていると錯覚さえ起こす。
いきなり10階から飛び降りようとするのは恐怖を感じる。でも2階から飛び降りて着地できると、「3階からでも大丈夫かも」と思ってしまう。
そのループで、気づけば失敗したら即死の階から飛び降りようとしている。そしてそれさえも「別に大丈夫だよ」と感じている。そんな錯覚。
でも誰も教えてくれない。危ないから、と。誰も見ていない。」

(『誰もボクを見ていない: なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』より、一部抜粋)

この生々しい感覚、読んでいてぞくっとしました。
私だってもしその立場だったら同じだったかもしれない。たまたまそうでなかっただけで。

台湾にいると社会が常に気にかけてくれているのを感じるし、シングルマザー時代も街のあちこちでたくさん救ってもらいました。

では、今の日本はどうなんだろう…
そのために自分ができることは何だろう…

たくさん考えさせられます。

「道ばたで見かける助けを必要としている子どもに、少しでも気持ちを向けてほしい。」

山寺さんの取材を受ける理由について、少年は「道ばたで見かける助けを必要としている子どもに、少しでも気持ちを向けてほしい。記事がそのきっかけになるのなら」と話したと書かれています。

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「家がなくホテルや路上を転々としていた小学5年から中学2年の間、少年はすれ違う人たちの冷たい視線を感じたという。一方で、ボストンバッグを持って路上をさまよう自分と似た目をした子どもを見かけることもあったと吐露した。『そういう子どもを見かけた時に、(貧困や虐待といった)背景があるのかもしれないと想像し、助けてあげてほしい』」と書かれています。

この本のあとがきには、山寺さんが「この少年のような子どもたちが見過ごされない社会にするにはどうしたらよいのかと改めて考えた」と書かれています。

そして、少年の手記にあったこんな言葉を引用されています。

「『こんな社会になってくれ』と望むだけで、誰もそうしようと行動しなければ意味がありません。(中略)貧困のない社会を望むなら普段からそのような人を見つけたら助けてあげてください」

どうしたらこの少年のような子どもを助けられるのか?

この本が特別だと思うのは、著者の山寺さんがただ少年の生い立ちを追うだけではなく、「どうしたらこの少年のような子どもを助けられるのか」を追求していることが感じられるからです。

山寺さんは少年やその周囲の方だけでなく、子どもたちの貧困・虐待に取り組まれている方々の元を訪れては取材され、この本にはそのお話も収められています。経験のある方から見たこの事件の問題点とは何か、改善できるところは何か、といったことです。

詳しくは本で読んでいただきたいのですが、ひとつのエピソードが心に残っています。

事件を起こした本当にその直後、少年は事件前日に北千住駅前の大型ビジョンで見た自殺防止の相談ダイヤルの映像を思い出し、映像とともに流れていた音楽を聴きたくなったそうです(この月は「自殺対策強化月間」で、駅などでは集中的にこの映像が流されていた)。

「ホテルに戻ってパソコンを借り、頭に残っていたサビのフレーズを、うろ覚えのままインターネットで検索し、動画サイトに投稿された音楽ビデオを探し出して再生した。」少年は、「もっと早くこの曲に出会いたかった」と思ったそうです。

内閣府「いのち支える(自殺対策)プロジェクト」キャンペーンソング「あかり-donationmusic ver.-」(ワカバ)

とても読み応えのある、良い本でした。

著者の山寺香さんは、在籍されている新聞社のお仕事(「貧困・虐待と少年犯罪〜川口事件の課題」(全3回連載・毎日新聞埼玉版・2016年3月1日〜3日付))がきっかけでこの少年を取材され、その連載が大きな反響を呼び、この本を執筆されたそうです。また、執筆中に長女を出産されているのですが、執筆中に出産って、想像に絶する大変さだと思うんですが…ものすごく丁寧に取材されていらっしゃいます。このことを書き残してくださったことに感謝したいと思います。

『誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』
著者:山寺香 出版:ポプラ社 発売日:2017年6月26日

「殺してでも金を借りてこい」。母親からの執拗な脅迫により、実の祖父母を殺害。金品を奪ったとして逮捕された当時17歳の少年。
取調べで明らかになったのは、少年が過ごしてきたあまりにも過酷な環境だった。
「判決はどうでもいい。自分のような子がいたら救ってあげてほしい。」。逮捕当初から取材にかかわる記者が、少年の犯した罪の実相に迫り、少年犯罪の背景にある闇を暴く渾身のノンフィクション。

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