スポンサーリンク
悲しすぎるニュースに、田中美帆さんが取った行動
今年の10月、台湾のノンフィクション作家・陳柔縉さんが交通事故で亡くなられ、「あまりにも大きな損失」として界隈は哀しみに包まれました。
私は直接面識がなかったものの、青木由香さんの恩人として青木さんのベストセラー『奇怪ね台湾』にも写真が掲載されるなど、多方面に大きな影響を与えられた方でした。日本と台湾の関わりについての著書も数多く出版されており、日本にとっても惜しすぎる方を失ったことになると思います。
この悲報を受けて、台湾在住のライター田中美帆さんがご自身のYahoo個人の連載コラムで、「台湾旅行解禁の前に知っておいてほしい 現地交通事情の深刻さ」という記事を公開されました。
田中美帆さんは
「台湾が日本だった時代のことをすくい上げていた陳さんが、次に何を書こうとしていたのか……陳さんにも陳さんの新しい作品にも出会えないのだと思うと、悲しく残念だし、怒りさえ込み上げる。『怒り』とことさら強い表現になるのも、普段から台湾の交通事情のひどさを感じているからだ。」ーーとして、台湾の交通事情に疑問を呈されました。ものすごくかっこいいことだと感じました。
田中美帆さんの「怒り」が、台湾メディアに届く
瞬く間にこの日本語の記事は台湾で中国語に引用翻訳され、多くの台湾メディアで大きく報じられていきました。
ついに、政府が動くまでに
そしてついに、選挙権の有無に関わらず民間から5千人の賛同が集まれば政府が対応することになっているプラットフォーム「join」上で、交通を管轄する交通部(日本の国土交通省に相当)に交通事故の件数をベンチマークするような記者会の主宰を求める声が上がりました。
(このプラットフォームはオードリー・タンさんが設立に関わっています)
「請交通部開設「交通疫情指揮中心」 舉辦記者會 詳報交通傷亡數字原因並接受提問」
https://join.gov.tw/idea/detail/31002fed-1b21-470e-8b9c-ae92612ef84a
スポンサーリンク
そして田中美帆さんの記事公開から一ヶ月も経たないうちに五千人以上の賛同が集まり、交通部から12月末か1月初旬から、交通事故に関する記者会見を行う予定であることが発表されました。
私のように選挙権がない外国人でも、居留証と台湾の携帯番号さえあれば民意を示すことができます。オードリーさんはこれもインクルーシブのために大切なことだとおっしゃっていました。
外国人だけでなく、選挙権を持たない未成年も参加でき、台湾では多くの意見がここから政策に採用されています。
田中美帆さんの行動に、私は小さなオードリー・タンを見ました
私は今、3月に出版予定のオードリー・タンさんの関連書籍の執筆の追い込み中ですが、今ちょうど書いている原稿に、この出来事にぴったりのオードリーさんの言葉がありました。
「ニュースが報じているのは『結果』で、それを変えるのはほぼ不可能です。一方で『問題が発生する前に防ぐ』能力は、すべての人に備わっています。」
これは「日々悲しいニュースを見ているうちに、他人のことはもうどうでも良く、自分のことだけを大切にしようと思うようになりました。」という悩みに対して、オードリーさんにアドバイスをお願いした時の回答です。ぼんやり感じていることではあったけれど、ここまではっきり言語化されるとは、と思いました。
オードリーさんは淀みなく言葉を続けます。
「テレビやインターネットニュースなどでたくさんの悲報を目にするうち、『自分はなんて小さい存在なのだろう』と思えてきて、何もできないと思うようになることはありますよね。
そんな時こそ、どうか『Forget your perfect offering(完璧さを求めるのは忘れよう)』という言葉を思い出してください。
本来、一人の人間が大きい構造的な問題を解決することなど不可能なのです。ですが私にしてみれば、「構造的な問題」はそもそも問題ではなく、「問題が未だ解決されていない結果」です。
病気の症状に少し似ていて、病気そのものではないんですね。だからもし大きな構造的問題が解決できない時には、自分には何ができるのかを問うてみてください。
たとえ小さなことしかできなかったとしても、あなたが何かをしたことにより、きっと未来には同じような問題が起こらなくなるでしょうから。
つまり、すでに症状が出てきてしまっている大きな問題に対処することは、ほとんどの場合、人の能力を超えているのです。
それでも「問題が発生する前に防ぐ」という概念があるように、未来に同じような問題が再び発生することを防ぐことはできるはずです。どんな人にもその能力は備わっています」
私はオードリーさんのこの言葉を原稿に起こしながら、「あぁこれは美帆さんのことだ」「美帆さんの中に小さなオードリー・タンがいる」と思いました。
「みんなで具体策を考えよう」、という田中美帆さんの姿勢。それはインクルーシブそのもの
田中美帆さんは先月のコラムに続いて、続編となるコラム「台湾の交通安全のためにできること。具体策を考えてみた」を公開されました。
私も物書き、そして在台邦人の端くれとして、自分にできる方法で貢献していきたいと強く思いました。
現場からは以上です。
スポンサーリンク